船戸与一ふたたび

akrh2007-07-10

船戸与一の季節がふたたびめぐってきた。
十年以上ぶりで下北沢通いが復活しているのだが、当地の幻游社で『伝説なき地』上下巻を入手してきたのである。
蝦夷地別件』ではそのストーリーテリングに舌を巻いたが、ここでもさすがの饒舌さだ。
ただ、蝦夷地のときのような抒情性がないというか、徹底した暴力につぐ暴力で、少々食傷するのである。
上巻を読み終わって、蝦夷地別件のような次の展開の意外さがなく、ああこのまま暴力が続くんだな、読者を惹き付けるためには暴力をエスカレートさせていくしかないんだな、そう単純だと面白くないな、という予感が脳裏をかすめるのである。
そこで、下巻に取りかかろうとして、オビに目をやると…。
「聖女マリアと魔女ベロニカの運命の邂逅は血の殺戮劇を破局へと誘ってゆく」
おお、まただよ。
華麗なる一族』は新潮文庫だったけど、この度の講談社文庫にもネタばれの紹介文を書く編集者がいたとは。
この一文で、500頁近い下巻の4分の3は語られてしまったのではないかな。
作者が悶え苦しみながら編み出したのかもしれない展開を、ええ、一文で、はい、ものの見事に。
手に汗にぎるストーリーものの紹介文というのはねー、取っ掛かりだけを書くものなんですよ。
それとストーリーのカギを暴露しちゃっちゃあダメなんですよ。
取っ掛かりだけを書いて引き込むのがあなたの仕事じゃあないですか。
どんな勘の鈍い読者でも、ここまで示唆されればねー、マリアとベロニカの関係は察しますよ。
ここでも、紹介文で示された展開を確認していくだけの愚鈍な読者という役まわりじゃないですか。
たいへんだね。文芸編集者って。