メモリー・オブ・ゲイシャ

akrh2006-11-21

『メモリー・オブ・ゲイシャ』(アーサー・ゴールデン著)。
バンコクあたりのツーリスト向け古本屋ではこの本が何冊も並んでいる。アジアに来る欧米の旅行者が妄想を膨らませるのにひと役かっているのだろう。
邦題は『さゆり』。改題したのは、さすがに日本では欧米で再生産されるゲイシャ・イメージに嫌悪感が強いからだろう。欧米人が芸妓=娼婦と思っているのと同様に、日本でももはやそのイメージが蔓延している。チャン・ツィー主演でハリウッドで映画化されても、日本ではそれほどヒットしなかったと記憶する。
最後はNYで没した大物芸妓の語る手記という体裁をとる本書を読後、あとがきで僕はあっと驚かされた。これ小説だったのか。ノンフィクション・ノベルですらなく、100%創作だとしたら、それはそれで脱力する。
小説だったら話は別だ。何らの技巧も芸術的到達もない本書を読み進んできたモチベーションは、「事実としての重み」にほかならないのに、あっさりと「いいえ、創作です」とは。
手記と思い込まされたのも、その技巧のなさゆえである。
それこそがむしろ成功といえるというのだろうか。
訳者は英作文より京作文が得意になるぐらい京ことばを特訓したという。訳は完璧だと思う。
しかし、本年最大の問題作である。何が問題といって、創作を手記と思い込んでいた自分が問題なのであった。信じ込みやす過ぎはしないか。